2011年5月15日日曜日

三日死んだ男

不況の影響か最近タクシードライバーになったというおじさんタクシードライバーに出くわすことが多いような気がする。そして、以前に比べタクシードライバーの接客態度が良くなったような気もする。

金曜の夜に乗ったタクシーの運ちゃんは気のいいおっちゃんで、その人もタクシードライバーになって8ヶ月と言っていた。
「車は節電関係ないから、夏場もエアコンつけていられますよ。」
確かに。ただ、その人は震災地での仕事の日当がいいらしいので、そちらへ行くかもしれないと言っていた。

昨晩乗ったタクシーの運ちゃんも運転手になって日の浅いおっちゃん…じっちゃんでもいいかな?だった。
頭は薄くなっており、恰幅がいい。いい男とは言い難い見た目。年齢は65歳と言っていた。

色々と話をしていて
「結婚してるんでしょ?」
と聞くと
「してますよ。学生の頃どうしてもムラムラして児童公園(どこだよ…)で押し倒してヤッたら出来ちゃって」
初対面の客に己の粗相というか初体験(だったそうだ)の話なんぞしなくてよろしい。処女と童貞のカップルの初体験がアウトドアってのに昭和40年代の若者の生活を垣間見る。
衝動的だったのはわかるけど、一応
「避妊しなかったんですか?」
と聞いてみたら
「一度も避妊はしたことない」
だって。それでも子供は4人と言っていたから、打率は意外と低いんだろうな。初打席でクリーンヒットしてるけど。

更に話を聞いていると
「私はねえ、3日間死んだことがあるんですよ。」
どういう事だろう?臨死体験だってのは何となくわかるけど。
聞けば病気で3日間危篤だったとか。で、その「死んでいた」間、三途の川も見たらしいが、所謂幽体離脱?みたいなものも体験したそうだ。
その時、結婚して40年、一度も泣いたところを見たことのない奥さんが病院で泣いているのを見て、
「神様仏様、1分でも1時間でもいいから生き返らせてください」
と思ったら生き返ったそうだ。生き返りたいと思った理由は奥さんに謝りたかったからだって。

そしてその「死んでいた」時、何故奥さんと結婚したのかもわかったと言っていた。それ以前は
「俺はなんでこの女と結婚したんだろう」
と思っていたそうだ。
「貴男が公園で奥さん押し倒してヤッちゃったからじゃないですか」
「それはそうなんですが」
運ちゃんの言わんとしいる事の意味はわかる気もするが。
その「死んでいた」時、奥さんと自分が並んで同じもの(映画のようなものかな?)を見ている情景を見たそうだ。恐らく生まれる前かな?それを見て、一緒になることが運命付けられていたと納得できたんだって。

その運ちゃん、以前は商社だかに務めていてそこそこ偉い立場だったらしい。年収も一千万超だったとか。1180万と言っていたけど。詳細な年収など言わなくてよろしい。
それだけの収入があったから、他所にも女を作っていたって。まぁ、金があればね。
更に海外にも取引があったので、海外でも色々遊んだそうだ。27ヶ国の女とヤッたと言っていた。
「じゃあ黒人とヤッたこともあるんですか?」
「黒人はね、真っ黒な中に鮮やかなピンクがあるんですよ。尻もプリンとしていて」
具体的に即答されるとは思わんかった。そんなことは言わなくてよろしい。
「じゃあ英語しゃべれるんですか?」
「いや現地では通訳つけてました」
「セックスの時も通訳つけたんですか?(付けるわけがないけど)」
「それは身振り手振りでなんとか…」
(腰振りじゃねぇの?とおっさんらしく言い返せなかったことを今更後悔)
「ところでそういう時にはコンドーム使いますよね?」
「いえ、一度も使ったことないです」
「もしかしたらどっかに子供いるんじゃないですか?」
「いるかもしれませんね」
豪快なのか雑なのか…女性には悪いが話を聞くだけの立場からすると面白いからいいや。
でもね、とりあえず
「なんでこんなハゲでデブのおっさんがそんないい思いしてるかな…ムカつくわ」
と僕が言うと笑っていた。

稼ぎも良かったし、それだけ遊んでいたけれど今はタクシー運転手。年収も180万だって。詳細な年収など言わなくてよろしい。
要するに年収1000万円減。割合にしても8割以上減ってる。
そこで、
「もし今もっと稼ぎがあったら、その時みたいに遊びますか?」
と聞いたところ
「いやぁ、遊ばないですね。立たなくなったんですよ」
だから何故言わなくていいことを…
「それでもがんばって数年前嫁とやろうとしたんですけど、やっぱり立たなかったんですよ」
だから何故言わなくていいことを…

でも今の方が幸せだと言っていた。今は奥さんを幸せにしたいそうだ。
奥さんには「タクシーの運転手なんて…」などと言われているそうだが、夜勤明け奥さんの寝顔を見ると幸せな気分になれるとか。携帯の待受画面はお孫さんの写真だった。

実はこの話、タクシーの中で始めたんだけど、目的地に着いてからも10分以上話し込んでいた。メーターは下ろしてもらっていたけどね。

最後に
「何故そんな話を僕にしたんですか?」
と聞いたら
「幸せになってほしいんですよ。相手は必ずいます」
大きなお世話といえばそうなんだろうけど、全く怒る気にもなれないし、妙に納得できたし、本当に気のいいおっちゃんなんだなーと。
握手を交わし降車した。

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