2013年10月4日金曜日

礼服を買いに

明日はお通夜という夜。家の中でならべてつりさげられた服をさぐってみても黒い服は見当たりません。

「おやおや、礼服がないね。」

ちんはこまってしまいました。

「あ、兄の家かも。」

朝になって連絡してみたけれど、兄の家にもありません。以前すててしまったのでしょう。でも、ぼーっとしてはいられません。ちんはさっそく礼服を買いに行くことにしました。

どんよりとした雲が空一面にひろがる平日の午前の紳士服屋さん。お客さんはすくないです。
ちんは店内に入ると、まっすぐに礼服の売場へ行きます。
たくさんの礼服があります。黒といっても一着一着てかりや黒さが違います。迷っているちんに店員さんが話しかけてきます。

「なにかお探しですか?」

ちんは答えました。

「このおなかに合う礼服をちょうだい」

巻尺を出した店員さんはちんのおなか周りの寸法を測ったあと、身長を聞きます。どんなおおきさの服が合うかを確認するためです。

「こちらを着てみていただけますか?」

すぐに店員さんは確認のための上着を出してきました。ちょっと肩が気になるけれど、ちょうどよいおおきさです。

おおきさが決まれば次はどんな礼服にするかです。店員さんはいろいろな礼服をならべてせつめいをしてくれます。でも、けっして広告にかかれている最低金額の服は出してきません。きっと、服のしょうかいのしかたにも決まりがあるのでしょう。
さきほど、ためしに着た上着はならべられたもののなかで一番高額なものでした。きっと、服のしょうかいのしかたにも決まりがあるのでしょう。

礼服だから、ぜんぶ黒い服です。見た目はそんなにちがいません。ちんの目には、金額の差にみあったちがいがわかりません。出されたなかで一番安価なものが一番黒く見えました。ちんが店員さんにそのことを聞くと、店員さんに

「光の加減もありますから。」

と言われました。一番黒いのはこの店員さんの腹かもしれません。

ちんが礼服を決めると、店員さんがお得な情報を教えてくれました。

「今だともう1着、紳士服が1000円で買えます。」

ちんは迷いましたが、今回は礼服だけにしました。広告に紳士服を下取りしてくれるとかいてあったので、着られなくなった紳士服を持ってきていたからです。下取りよりも2着目1000円のほうが割引金額は多くなるのですが、支払額が増えること、紳士服をほとんど着ないことがその理由です。

そのほかに、必要なものがあったので、買いそろえたのですが、そのときにもお得な情報を教えてくれました。

「服や靴など4点で19,800円です。靴をのぞく3点で10,000円です。」
「礼服を買っていただいたので、靴下は4足で1050円です。」

さらに、おしはらいのとき、すそ上げのおねがいをしているときにもいろいろなものを紹介してくれます。親切な店員さんです。おかげで、家を出る時に買う予定ではなかったものまで買ってしまいました。

家へ帰る道でちんは考えました。

「紳士服屋の値札ってなんなのかしら。」

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